海外の多くの大学や企業が取り入れている「デジタルバッチ」。これは、自己が持つスキルや資格をオンライン上で公表できるというもの。EXINでも合格者にデジタル認定証と共にデジタルバッジを付与している。
このEXINのデジタルバッジはEXeedプラットフォームで提供されており、クリックするとそのデジタルバッジはどのような資格なのかの詳細がわかるようになっている。誰もが勝手に掲示できるものではなく、真の資格保有者のみに与えられた証である。これをLinkedinやFacebookに掲げることで自己アピールにつながる。
EXINでは、このデジタルバッジ作製プラットフォームを組織に提供している。
宮田さん:当社は情報処理サービスの受託業務を主たる業務とし、損害保険ジャパンをはじめとするSOMPOグループ会社のシステム開発·運用保守を担っています。
そのなかで中心となっているのは、損害保険ジャパンの基幹システム開発です。現在、大規模な刷新プロジェクトを推進しており、スタート時点では他の保険企業ではまだ取り組んでいなかったオープン化での再構築にいち早く乗り出しています。
長年使い続けてきたシステムを切り替えるのは簡単なことではありません。1,612名(2019年12月現在)いる社員のうち、約2割がそのプロジェクトに関わっています。
宮田さん:日本企業はビジネスサイド(ユーザ企業)にIT人材をあまり抱えていません。なぜなら、ITシステムを構築する際は、システム会社に委託すればいいと考えているからです。しかし、海外ではビジネスサイドにIT人材が豊富です。それは何を意味するかというと、ITとビジネスはとても近いということなんです。
近年のようにITのバリエーションが増え、業務そのものにITが食い込まれ、その対応のスピードが求められるとき、ITとビジネスの距離が遠いと相当な弊害になると当社では大きな危機感を持っています。
当社のようなユーザ系IT企業は本来、ITに対してもっと力を入れるべきなのです。確かに、ITに対するスキルは一定あり、レビューもできます。しかし、いざ新しいITを活用しなければいけないとなったとき、その情報やスキルをシステム会社から入手しなければならないようでは、後手に廻ることになります。ですから我々は技術の空洞化を乗り越えて力を付けて行かなければ、SOMPOグループの一員として貢献できないと考えています。
その中で、特にマネージャーは常に学び続けなければいけないと思っています。若手はマネージャーを見ています。現在の業務推進に全力で取り組む姿は若手にとって手 本とはなりますが、それだけでは足りません。常に今の自分の経験を棚卸し、新しい知識·スキルを身につけていく姿を見せなければいけません。
そのため、学ぶ文化を作らなければいけないと思ったことも、人材育成に力を入れることになった理由です。
宮田さん:私はコンサルティング会社に勤めていて、コンサルの立場でSOMPOシステムズの人材育成、人材戦略に関わっていました。そこで提案したのは社員全員の保有スキルの可視化です。これは企業文化の変革の入り口になります。しかし、ただ提案しただけでは絵にかいた餅で終わるかもしれません。実現のためには転職して、推進する側に立たないといけないと思ったのです。
宮田さん:変えられると思いました。当社には真摯に物事を受け止める風土があったからです。それに私の提案に対して社長が真剣に聞いてくれたこともありました。
宮田さん:大切なのは人材育成をする目的です。当社の目的は先に言ったように技術の空洞化を埋めてSOMPOグループに貢献すること。人材育成をするには投資も必要です。そのためにも理由が明確かどうかは大切だといえます。次の問題は、推進する人がいるのか、協力者がいるのか、だと思います。
宮田さん:私は2015年に入社したのですが、最初の1、2年はとても厳しい状況でした。もっと社員の話を聞いて、何に困っているのかを言及できないといけない。「別 にこのままでいい」と考えている人たちの言い分を考えなければといけない。他社の成功事例で説明してもダメだ、そう思えるようになったのが3年目からです。
「変える」ことは現状否定の文脈を含みます。どうしても対立関係になりがちなので、ゴールが同じであることを示さなければいけなかった。つまり、最初に信頼してもらうことが重要だったのに、私は出来ていなかったのです。その一番の問題は私が人を巻き込まなかったこと。「自分でなんとかできる」と自分を過信していたことです。
宮田さん:そうです。いろんな人に助けを求めないと絶対に成し遂げられないと分かりました。今までのやり方を180度変えて、耳を傾けるようにしました。
社員の人たちに話を聞いてみると、当時私が検討していた人材育成施策は社員の今までの経験を否定しているように思えるようでした。ということは、社員たちが今までやってきた「経験」を活かすことを考えれば、もしかしたら同じ方向を向けるかもしれないと思いました。そして、より先に進めるようにすることがポイントだと考えたことが、人材育成の施策として「スペシャリティ認定制度」を組み立てる切っ掛けになりました。
※「スペシャリティ認定」は、公益社団法人企業情報化協会(IT協会)が主宰する「2020年度(第38回)IT賞」において、マネジメント領域のIT賞を受賞している。
宮田さん:スペシャリティというからには専門性がなければなりません。そして、その専門性は誰が見ても専門性があると認めるものでなければなりません。ここが難しかったところです。
あるシステム開発に携わってきた人にとっては、そのシステム開発で必要な経験があれば事足ります。でも、その経験が別のシステム開発でも応用できるのか、それが専門性であると知ることで、見方も変わると考えました。
そのためには標準的な指針に照らし合わせて、自己の専門性を再確認し、何が出来ていて何が出来ていないかを可視化する必要があります。そのため「認定基準」を定義し、基準の項目単位に自身の経験を申告してもらうシートを設計し、そこに記入してもらうことにしました。
自分がやってきたことを書くので誰にでも書けるはずです。やっていないことを書けといっているわけではありません。ただ、指針はあるのでそれに合わせて、専門性を棚卸してください、というのがこの「スペシャリティ認定制度」のポイントでした。
宮田さん:専門性は「ビジネスアナリシス」「アプリケーション」「インフラストラクチャ」「ITサービスマネジメント」「プロジェクトマネジメント」「クオリティマネジメント」の6領域あります。「認定基準」は各領域に約80項目定義されています。まず、申告する領域を選び、項目単位に自分がやったことがあることを書いてもらう様式です。
宮田さん:そうなんです。標準的な指針で見るとどこが強く、何が欠けているのかが一目瞭然です。もし、キャリアアップを考えるなら、強みを活かしながら欠けている部分を努力して補わなければなりません。
あくまでも目的は可視化です。今までキャリアは会社が作ってくれました。しかし今はそのような時代ではありません。自分の専門性を再確認し、5年後、10年後のキャリアを獲得して欲しいという想いがありました。
宮田さん:しかも、「スペシャリティ認定制度」なので、申告して終わりではありません。審査があり、合格率は2割、3割ととても低いんです。
審査は1年に1度なので、翌年に再チャレンジとなります。ただ、申告に対してフィードバックがおこなわれます。何が強みで何が足りないかを指摘されるため、1年かけて修正することで翌年の合格率はすごく上がります。
宮田さん:合格した人はさらに翌年、書類審査に加わることができます。他の人の申告を見るとそれも勉強になります。そこでまた成長することができます。
宮田さん:「スペシャリティ認定制度」そのものが人材育成の施策として機能しているということが狙いです。研修制度はありますが、研修を受講させて育成しようではなく、自ら成長することが目的です。
審査では各領域に1人、社内の有力な人にオーナーという形で審査のトップを務めてもらいます。そのオーナーは社長から任命された人です。6領域に各1ひとり、計6人がいます。
「スペシャリティ認定制度」には認定委員会があり、最終的には社長や重役がOKを出さなければなりません。その委員会で説明をするのはオーナーです。
宮田さん:2015年から着想し、スタートさせたのは2018年からです。毎年、12月に申告してもらい、半年かけて審査します。全社員に申告するチャンスはありますが、強制ではなく申告したい人だけが申告するスタイルです。経験の棚卸なので、30代後半から40代、50代が中心になります。20代でもチャレンジは出来ますが、経験不足で受かることはないと思います。
また、この「スペシャリティ認定制度」は人事制度に紐づいていて、昇格要件の一つになっていますし、年収も変わってきます。
宮田さん:それは会社の本気度でもあるんです。
2020年で3年目になりますが、スペシャリストは約100名、マスターやエキスパートは約30名、認定しました。2020年は200名くらいが申告するので、従来の合格率なら、認定者はトータルで約200名になると思います。
宮田さん:当社では経営基本方針に「Our Way」を掲げ、その中に人材育成に関するものがあります。今まで「人材育成3原則」と謳っていましたが、2019年からこれが「キャリア開発3原則」と変更され、内容も変わりました。
例えば、第1の原則が「私たちは高い個の技術力をもつ人材を育成します」から、「私たちは、自律的にキャリアプランを考え、実現に向けて取り組みます」と変わっています。
つまり、従来は“会社が人材育成をする”というスタンスだったのが、“社員が自らキャリア開発をする”と変わった。自分たちの手元にキャリアが引き寄せられた証明のひとつだと思っています。
宮田さん:会社が社員を、上司が部下を育成する、という話ではなく、自分が自分を、と主体が社員になったのが「スペシャリティ認定制度」による変化のひとつです。
宮田さん:リアルなバッジだと服やネームプレートにしか付けることはできません。でも、「デジタルバッジ」だとFacebookにもアップすることかできます。社内の資格ですが、持って いることを多くの人に発信できるし、興味を持った人と交流することもできます。デジタルの世の中では、自分の情報を自分から発信して行くことも重要です。自分の意識改革の一環として、盾や賞状といった記念品ではなく、「デジタルバッジ」が今後は機能して行くと考えました。
宮田さん:私はITILやPM等の資格を持っていて「デジタルバッジ」の存在は知っていました。でも、個別でも作れることは知りませんでした。自由に作れると知って、「スペシャリティ認定制度」の6つの領域について自社独自の「デジタルバッジ」を作ることにしました。
宮田さん:「スペシャリティ認定制度」は先ほども言った通りマネジメント層向けの施策のため、今、「デジタルバッジ」を持っているのは40代、50代が中心です。デジタルの「デジタルバッジ」は若い人の方が活用してくれると思うので、今後は若者も参加する人材育成施策で、別の「デジタルバッジ」を配布することを考えています。そうしたらTwitterなとで発信してくれると思っています。
宮田さん:SNSは今では一般的なことです。「デジタルバッジ」を活用することで「SOMPOシステムズというのは面白いことをする会社だな」と思ってくれる方がメリットは大きいと考えています。
宮田さん:今後どんどん開示して行こうと考えています。
自身のキャリアを開示するということは、当社の社員にとっては相当な挑戦です。今までは長年同じ部署にいて、周囲の人が自分のスキルやキャリアを知っていてくれて、積極的に開示する必要はありませんでした。「デジタルバッジ」はその流れとは真逆です。当社の企業文化の転換のために「デジタルバッジ」は効果的だと考えています。
宮田さん:「スペシャリティ認定制度」によって社員は自信が付き、モチベーションが上がったと思います。そこに「デジタルバッジ」を掲示することで、キャリアがアピールできて、ジョブチェンジにも役立つと思います。
宮田さん:「スペシャリティ認定制度」は、経験やスキルを認定するものです。今後更に考える必要があるのは未来の技術のスペシャリスト。デザイン思考やUI/UXのスキルが必要となっても、そのスキルをどう判断するのかが課題です。そもそも制度は頻繁に変えるのは基本NG。特に当社の「スペシャリティ認定制度」は年収とも連動していますし、なおさらです。どのように制度を設計するかが次なる挑戦になります。
SOMPOシステムズ株式会社
フェロー
人材育成部長
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