これからの時代、現場と学習。両輪が欠かせない。

~講師インタビュー~

 

EXINが提供する、さまざまな研修プログラムにおいて、講師は欠かせない存在です

今回は、レガシー エンタープライズ システムを熟知しているエキスパートで、尚且つ、アジャイルやDevOpsに代表されるモダンなマネジメントを8年前から取り組んでいらっしゃる原 清己氏に、お話をお聞きしました。

どのような経緯で講師への道を歩んできたのか、そして、現場の皆さんに、どのように学習するのが良いのかを伺いました。

 

◎「ITは何のためにあるのか」の視点が大事

──どのようなお仕事をされているのでしょうか?

今は社会人向けの研修サービスの仕事をしています。2013年に日本アイ・ビー・エム研修子会社から㈱アイ・ラーニングに移籍したことでこの道に入りました。現在は独立して研修講師などの仕事を継続しています。

担当している分野は、アジャイル開発、DevOps、ビジネスプロセスマネジメントやビジネスアナリシスを中心に、従来からのプロジェクトマネジメント、ソフトウェア開発手法など、IT系の分野を幅広く手掛けています。その中で特に力を入れてきたのはアジャイルやDevOpsの分野です。この分野は技術論だけの話ではなく、それまでの価値観や考え方そのものを変えることが必要な新しい分野です。自分にとっては異質な世界でもあったので、最初は大きな壁を感じました。しかし、それまでの自分を超越したいという思いで、こうした新しい分野にチャレンジしながら今に至っています。

 

──どのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

1978年に日本アイ・ビー・エムに入社し、自社のIT部門で仕事を始めました。その当時からIBMはグローバル企業でしたので、海外との共通システム導入とローカライゼーションを通して、グローバルプロセスの構築から日本語情報システムの導入といった、当時としては最先端の仕事を経験することができました。

その後、お客様サポート部門に異動し、自動車会社の担当システムエンジニア、お客様の一括請負開発であるシステムインテグレーション、システム化のコンサルティング、業界も製造、金融、通信、メディアなど、とても幅広い分野で多くのプロジェクトを担当しました。

その後、個人的な理由もあって社内部門の仕事に戻り、全社横断的な課題を解決するためのPMO(Project Management Office)、IBMアジアパシフィックへの出向、さらにIBM本社に設置されたCenter of Excellenceへの出向、その後、子会社管理部への転籍など、いま振り返ってみると同じ会社ではありますが、幅広い分野で実に変化に富んだ経歴を歩んできたと実感しています。60才を過ぎても新しい分野にチャレンジできたのは、こうした経験が支えてくれたのだと思います。

 

──システム系からプロセス系、ビジネス系とさまざまな世界を経験されてきたのですね。

真の問題を解決するためには、多角的な物事の捉え方が大事になります。

企業情報システムを全体から見た時、システムとは企業のビジネスプロセスを支えるもので、そのビジネスプロセスとは企業のビジネスそのものを支えています。

そう考えると、システムを技術面だけから考えるのは一面だけで見ていることになります。システム自体の構造もさることながら、そのシステムとは何の目的で存在しているのかを考えることが大切ではないでしょうか。

そんな事を考えるといろんな興味が湧いてきます。

システムを操作している人の働き方はどうか、組織のプロセス構造はどうなっているのか、その組織の事業内容は、さらに、その先にいる顧客へのサービス内容など疑問が膨らんでいきます。

お客様が抱える課題を解決するためには、技術的な側面だけでなく、「ITシステムとは何のために存在するのか」といった視点が大事だと思います。

──「何のためのITシステムか?」から、取り組んでいらっしゃったのですね。

 

◎自分自身で納得すれば、受講者にも納得してもらえる!

──もともと研修への興味はあったのですか?

研修に興味を持ち始めたのは55才を過ぎてからです。自分の経験を若い世代に伝えることができれば素晴らしいだろうと、漠然と思っていました。ただ、この世界に入って思ったのは、すでに過去のものを伝えるだけでは講師として何か物足りなさを感じました。

日本では数年前からアジャイル開発やDevOpsが注目され始めていますが、2014年頃には誰からも殆ど認知されていない新しい分野でした。また、システム化を進める上で常に問題となるのがビジネスプロセスですが、そうした課題に対しての具体的なアプローチを伝えることができないだろうかと、そんな思いもあって、新たな取り組みをやってみようと決めました。今から考えると、アジャイルは納得するまで大変でした。諦めずに根気よく続けて良かったと思っていますが、それにしても、自分で腹落ちするまで納得するには、それなりの葛藤がありました。

 

──ご経験は豊富なのに理解するのは大変でした?

誰にでも、今までの経験や知識をもとにした思い込みや固定観念があります。年齢を重ねれば尚更です。

単なる技術論であれば、そのような抵抗感はさほど無いように思いますが、考え方や価値観の違う世界では、過去のバイアスが壁になり易くなります。自分自身を変えないと、そうした新しいものが見えてきません。外の世界とは、結局自分に写っている自分の世界でもあります。アジャイルの世界は従来のウォーターフォールやプロジェクトマネジメントと価値観が180度違いますので、それを納得するとは、ある意味で過去の否定でもあります。それで先ほど葛藤という言葉で表現しました。

 

──なぜ、アジャイル開発を理解できたのですか?

自分の心の中に、過去の時分に満足していない部分があったのだと思います。今までの自分に自信とプライドを持っている人は、そこで満足してしまうと思うのですが、そうではなかったので、今までと違う新しい自分を発見したいという思いがどこかにあったのだと思います。

アジャイルを学ぶことは、従来の仕事の進め方をゼロベースで見直すチャンスでもありました。最初から共感する部分もたくさんあって、半分は肯定しながらも、半分は否定しながら、本当は何が正しいのだろうと自問自答しながら進めていました。また、現場でアジャイルコーチを実践している人から、貴重なアジャイル経験とアドバイスを頂きながら、アジャイルの真の世界が徐々に理解できるようになりました。

 

──アジャイルは奥深いと言うことですね。何が違うのですか?

アジャイルはソフトウェア開発のひとつの方法論ですが、それだけではアジャイルの本質は理解したことになりません。

その手法の背後にある原理・原則を理解することが大事です。アジャイルとは単なるソフトウェア開発手法ではなく、人の働き方そのものの変革を言っています。現場で働く人が自分の仕事に自信を持ち、自分たちの改善を繰り返し、顧客価値を最大化する。その為に、人を尊重し、人を信頼し、能力を最大限に発揮できる環境を与えるためのフレームワークがアジャイルです。その為にはマネジメントが変わらなければならず、マネジメントのためのフレームワークでもあります。

こうした考え方の源流はTPS(トヨタ生産方式)であり、リーンマネジメントです。その究極がDevOpsであり、DevOpsとはアジャイルとリーンの発展形なのです。最近では、それを自分の言葉として「組織を素早く変化させるための能力開発」ですと、伝えています。

 

──アジャイルは、日本の会社のTPS、それにリーンから生れたとは、どういうことですか?

TPSを簡単に説明すると、より少ない資源で顧客価値を最大化するためのものです。顧客に価値を生まないムダをとって、顧客の注文から納車までの時間を短縮する。同時に生産に必要な原材料を最小限に抑えることです。

リーンマネジメントとは、TPSを学んだアメリカで生まれたもので、市場に素早く連動して自律的に動くマネジメントスタイルを実現し、顧客価値を重視してマーケットに素早く対応するための価値駆動型のマネジメントのことです。アジャイルを採用しているシリコンバレーの革新的なスタートアップ企業は、従来のような計画駆動型のマネジメント手法と相性が合わず、こうした考え方を採用しています。

アジャイル開発とは、こうした原理・原則がソフトウェア開発の世界に適用されたものです。

 

──では、アジャイルを自分自身で納得できたということですか?

アジャイルの道のりは長かったのですが、自分でやっと納得できた時に受講者にも納得してもらえました。その時は自分でも感動していました。この分野の講師をしていて良かったと思いました。

 

◎強みはひとつだけではない。複数の専門性を積み上げて行く

──DXの時代で、ビジネス=ITになってきています。先生のご経験を通して、学ぶことでキャッチアップし、気づきを得られることがあれば、教えてください。

いま流行のDXの時代では、人材プロファイルとして、I型からT型、π(パイ)型の人材が求められます。ひとつの専門だけのスペシャリストではダメで、複数の専門性と多面的で幅広い視野をもった人材が必要になります。

デジタル技術を最大限に活用するためには、その一方の軸となるビジネスの分析力についても、これからのIT技術者にとって重要な能力であると思います。

ビジネス・アジリティという観点で、ITとビジネスを融合させることが重要になります。

しかし、現実はそう簡単なことではありません。大学院などのビジネススクールでさえ、率直に言って効果的とは思えない時代遅れの経営手法を教えているところもあるようです。従来から教えられてきた経営戦略を学べば、劇的なビジネスを持続的に生み出せると信じたい気持ちは分かりますが、残念ながら現実はそんなにうまくいきません。より良い製品やサービスを繰り返し生み出すということは、かた通りの経営戦略論ではダメで、士気の高い社員がいるからこそ可能であって、そのヒントを与えてくれるのがアジャイルのフレームワークです。

ビジネスの分析をアジャイルの視点から見つめ直すことで、もっと効果的で新しい経営論や組織論、そして、アジリティを実現するビジネスの進め方、それを支援する新たなマネジメントスタイルが見えてくると思います。

 

──先ほどの言葉、アジャイルとは「組織を素早く変化させるための能力開発」ということですか?

顧客に一番近いところで働く人が、お互いを尊重し、お互いを信頼し、継続的に改善を進め、常に変化と成長をする。それによって、組織も共に成長することができます。企業が成長するとは売上金額が増えることではなく、そこで働く人が成長することです。結果として顧客価値が最大化し、その結果としてビジネスパフォーマンスを向上できる。このようなカルチャーを育成することで、組織が素早く変化する能力を身に着けることができる。そのように期待しています。

今日は、アジャイルを中心にお話しを伺いました。ありがとうございました。

 

【プロフィール】

原 清己(はら きよみ) 氏

日本IBMの情報システム部門を経て、製造業(自動車)の担当SE、様々なお客様のシステムインテグレーション、コンサルティングサービスに従事。その後、社内のシステム企画、アジアパシフィック-ファイナンス、IBM本社(米国) のCOE(Center of Excellence)で幅広く経験を積み、研修子会社に移籍後、独立。

ITシステムの上流、デリバリからアジャイル、DevOpsの研修を、アイ・ラーニング社等にて登壇の傍ら、学会での発表、ビジネススクールなどで活躍中。

EXIN関連保持資格は、DevOps Master, Professional、Agile Scrum Master, Foundation、SIAM Foundation、ITIL Foundationなど。

 

 

 

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