データセンター最前線!  知識と情報の持続可能性がここにある

生成AIなどの技術革新やデジタル化のさらなる進展によって、国内外のデータセンター市場は爆発的な成長を続けている。その裏には急増する消費電力などの環境負荷やセキュリティ対策、立地や建設問題などさまざまな課題も横たわっている。

データセンター関連事業者だけでなく、ユーザーや自社で独自のファシリティを持つ企業、さらには設計や建設に携わる人々に至るまで、多くの関係者にとってデータセンターに関する最新の有益な情報を獲得し、正しい知識や資格を身につけることはとても重要だ。

2009年10月より日本ヒューレット・パッカード社でスタートした「データセンター研修コース」の講師として立ち上げから関わってきた大谷淳一氏は、国内外のデータセンター事情に精通する第一人者である。その大谷氏に研修コースの最新のアップデート事情、そして新たに加わった新コースの魅力について話を聞いた。

 

データセンター研修コースの全体像

—EXINの「データセンター研修コース」にはどのようなものがあるのでしょうか?

大谷さん(以下、大谷):そもそもこれはEPIという国際的なデータセンター教育と各種認定を行う会社が運営する資格制度です。EPI社が教材を開発し、日本HP社とEPI社が協業でローカライズを行いました。日本でスタートしたのが2009年10月でその時点ではCDCP(データセンター・プロフェッショナル認定コース)の1コースだけでした。

その後、技術的に詳しいコースCDCS(データセンター・スペシャリスト認定コース)を開講して、それと並行してファシリティの運用管理に特化したコースCDFOM(データセンター・ファシリティオペレーション・マネージャ認定コース)もはじまりました。その後、CDCPやCDCSの最上位にCDCE(データセンター・エキスパート認定コース)が加わったのです。また、CDFOMはマネジメント面を強化する一方、データセンター運用の実際的なノウハウを中心としたCDFOS(データセンター・ファシリティオペレーション・スペシャリスト認定コース)も開講しています。

さらに日本では2024年から、いわゆるエネルギーマネジメントとサスティナビリティに特化したコースCDESS(データセンター環境サスティナビリティ・スペシャリスト認定コース)がはじまりました。EPI社としては2022年くらいからはじめていましたが、その日本版がはじまったのです。

 

−コースは適宜アップデートがされているのでしょうか?

大谷:そうですね。決まってはいませんが、3〜5年のペースでコース元のEPI社が改訂し、それを日本でも私が反映するという感じですね。

 

−過去のバージョンと最新版の違いはどういうところですか?

大谷:データセンターという機能の基本的な考え方は変わりません。しかし、例えば15年前はまだ深層学習を原理としたAIはありませんでした。また、高密度と言っても限られたものでした。10年前にクラウドはありましたが、ここまでの規模にはなっていませんでした。環境問題はありましたが、そもそも環境問題をデータセンターに結びつける話はあまりありませんでした。そして、そういうものを評価する指標PUE(Power Usage Effectiveness)というのも提唱されていましたがまだ国際規格にもなっていませんでした。

今では、PUEだけじゃなくデータセンターを評価する指標は8つできています。

データセンターの作り方についても15年前と今では全く違う。現在のメインはハイパースケーラーのデータセンターで、電力規模は何十メガワット、何万キロワットというのが主流です。

ただ、むしろそれだけじゃなく、見えないところでたくさんある大小のデータセンター、あるいは公表もされていない自社センターなどがたくさんある。多様化しているんですね。多様化しているって捉え方をしないと間違えるんですけど、その中で何が共通事項かもある一方で、それぞれの目的に応じて先鋭化もしなきゃいけない。その個別の業務、個別の社会的ニーズあるいは業務ニーズに合わせて、どういうデータセンターを作って、提供して、運用していくべきか? あるいはできたセンターも何十年も運用していく中でITや社会の変化に対応していかなければいけない、という意味では、多様化するのはどう多様化していくかですけど、それぞれの知恵が求められると思うんですね。

 

―アップデートされるのは教材?授業?

大谷:両方です。教材は勿論、アップデートは手間が掛かるから数年に1回ぐらいのペースですが、私の話の内容は、ある意味毎回違うかもしれません。そうすると面白いんです。

例えば、それぞれの認定資格は3年毎に更新で、再試験を受ける必要があるのですが、私の講義を再受講される方がいらっしゃいます。あるいは、再試験を受けたけど、もう内容変わっているから合格しなくてやっぱり講義を受けにきましたって方もいます。同じ話をするかもしれないと言うと、だいたい皆さんおっしゃります。「やっぱり変わっていましたね」とか、「前はこんな話をしなかったですよね」と。自分であんまり意識してないけど、ITやデータセンターや環境がどんどん変化しているので、変えざるを得ないですよね。自分自身の経験も増えておのずとネタも増えてますし。

データセンター業界って凄く面白いなと思うのは、新しいですよね、他のいろんな業界から比べるとね。まだ本格化してから30年。本当に脚光浴びたのはここ10年ぐらいですけど、どんどん変わってきているというか、バリエーションが増えている。だから求められる可用性とかのレベルもどんどん上がっているし、役割も増えているし、関係者も増えている。世間からの注目度もどんどん増えている。どんどん変化しているんですね。それをキャッチアップしなきゃというより、リードしていく、皆でリードしていく。でもこうすれば良いというものはどこにもないので、ある意味手探りです。

でもそこはある意味、凄くしんどいけれど面白い業界ですね。しかも何ていうかな、例えば鉄鋼業界だったら鉄って何かを研究する大学の先生がいて、ケミカルだったらケミカルの世界でやっぱ大学の先生がいて、そのもとに業界団体や学会があって、プレイヤーもみんな見えている、という感じですよね。

一方で、データセンターは、この分野研究すればスペシャリスト、というのは無いわけです。データセンターって見えてない世界を手探りで作っているんです。しかも技術分野だって科学分野だって本当にその土地の選定の土地の状態の活断層がどうのとかね、建物ってどう作るか、基礎ってどう作るか、地震でどうか、自然災害でどうか、建築基準法でどうか、それから何と言っても落ちない電気、空調機械、セキュリティ、防災あるいは火災対策やガス消火、それから人のオペレーション全部、それからネットワークとかですね、ネットワークもファイバーがどうのとか。

 

―それらがアップデートされると対応しなきゃいけない?

大谷:対応していくわけですよ。対応するのが当たり前だから。そういう意味で変化の対応っていうか、成長や進化、世の中のデータセンターを取り巻く全部に対しての成長への対応というのはデータセンターの面白さですね。

やんなきゃいけない、キャッチアップしなきゃなって思っている人は辛いと思います。

でもそれをやるのは当然だと思って、でもどうやればいいの?って、どこにも先生いないし、どこにも前例ないから皆で手探りで作って、その手探りで作って情報交換し合って、何とかしてくっていうー それぞれがやっているものも時々集めてみて、ガイドラインとかね、スタンダードとか作ろうとするといろんな集まってくる中で取捨選択して、これだよねとか、でもこういうのもいろいろあるよねっていうのを手探りで作っているって、めちゃめちゃおもろいです。それがイコール、この業界の面白さだし、それを伝えられるのがコースの魅力ですね。

 

―新設されたCDESS(データセンター環境サスティナビリティ・スペシャリスト認定コース)についてもう少し詳しくお聞きしたいんですが。

大谷:今は各コースで基礎コースから全部、データセンターと環境問題とか持続可能性とかエネルギー問題と切り離せないので、まぶしてはいるんです。話の中で多少語っているし、テキストの中でもフリップで何枚かあったりもするんですよ、コースによってはね。

でもそれはやっぱり断片的な、なんていうかな、概論でしか話してないんですよね。本当にその環境問題とデータセンターって、どう繋がっていくんだってところを、いろんな側面で喋らなきゃいけないが、それは流石に時間が限られて話せないんですね。それを今回、まとめて切り出して話すコース、この新しいコースをスタートさせたんです。

そういう意味ではデータセンターのファシリティとかその電力消費が何かってことを、基本的にはある程度わかってる方に参加いただくのがおすすめというところですかね。

 

−受講を検討している方に伝えたいことは?

大谷:データセンターっていうことを軸に、そのエネルギー問題、環境問題、サステナビリティの考え方についてお話をしていますが、あくまでデータセンターをキーにして喋っているだけで、ある意味では世の中全般として捉えておくべき基本的な情報知識を喋っているつもりでいます。

従って、データセンターをキーにして喋りますが、世の中のエネルギー問題などに、ご関心のある方は是非いらしていただければという、私も知ってることは限られてますので、できればこれ知らないのかって突っ込んで頂いてもいいぐらいなんです。

でも一応私も立場としては、立場という言い方好きじゃないけど、ISOとIECの合同委員会JTC1のSC39の日本国内委員長ですので、データセンターの規格作りに絡んでますし、そうすると他の規格の委員会とも絡みはあるし、どうしても今、データセンターは一番注目されて、その持続可能性とエネルギー問題と環境問題等で、注目を浴びざるを得ない。どうしても自分の守備範囲を広げざるを得なくてですね。例えばこれ今年活動が始まってるんですけど(2024年8月時点)、AIをやってるSC42ってのがありまして、AIをやる上でやっぱりサステナビリティを考えなきゃということで、AIをやるSC42とデータセンターのSC39とでサステナビリティの合同ワーキングというのができてきていて、1年限定でまずは共同で検討すべきテーマ出しをやっていかなきゃいけない。今のところこれから何やろうみたいな探り合い状態なんすけど、でもAIをやるってことは大消費電力がついて回るから必然的にサスティナビリティやんなきゃいけないってことですよね。

今の時代というよりこれからの時代、サステナビリティというのは、我々人類のあらゆる活動基本の一つになって、それからどういう課題があるとか、全体感があるとか、そういったことをぜひ把握していただき、把握するきっかけになっていただきたい。そのためのいろんな情報、あるいはネタ、考え方っていうのをお話しますので、是非それをヒントにして、皆さんの知見を広げ考えを深めていただきたい。そのきっかけになれば嬉しいです。

−大谷先生、本日は貴重なお話有難うございました。

 

【大谷淳一氏プロフィール】

1986年東京大学工学部電気工学科卒、1988年修士修了、1988年株式会社リクルート入社、通信事業に従事。1992年株式会社電通国際情報サービス入社、システムインテグレーション業務に従事し各種企業ITに関わる。2007年個人事務所開設、2015年株式会社大谷技術士事務所設立、現在に至る。オフィスやデータセンターの構築および運用のコンサルティングに従事。データセンターのファシリティ国際認定資格の講師。JDCC(日本データセンター協会)でファシリティスタンダード・ PUE 計測計算ガイドライン・運用ガイドブック・サーバ室技術ガイド等の策定ならびに各種制度設計に関与。ISO/IEC JTC1/SC39 日本国内委員長としてデータセンターの環境性能や可用性に関する ISO/IEC標準 策定に従事。

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