ソフトウェアテストの現場に一石を投じるアプローチ「TPINEXT(テストプロセス改善)」

ソフトウェアテストの現場に一石を投じるアプローチ「TPINEXT(テストプロセス改善)」

エンタープライズ系のシステムでは、リリースしたあとの修正が難しい」これはソフトウェア開発、エンジニア、SEなど、“開発”に関わっているものなら誰もが考えること。だからこそ、不具合が発生しないよう綿密にソフトウェアテストを行う。しかしながら、テストの手法は40年間変化していない…

今回は、富士通で40年、システム開発の最前線で活躍してきた南山大学で客員教授を務めている薮田和夫氏にテストプロセス改善手法、考えかたについてお話しを伺った。

 

◎薮田さんがコンピュータの世界に飛び込んだきっかけは何だったんですか?

薮田和夫さん(以下、薮田):父親がトヨタで主査をやっていたんです。その父親が、「これからはコンピュータだ」とよく話していました。私が富士通に入社した頃は、まだコンピュータは一般的ではありませんでしたが、いまではどの産業にもコンピュータを通して成り立っています。これからの産業も同じようにコンピュータなくして成り立たないのではないでしょうか。

「TPINEXT(テストプロセス改善)」
日々多くのシステム、ソフトウェアが登場している。

スマートフォンにもアプリがありますよね。こうしたソフトウェアも開発した上で、ソフトウェアテストを行っているんです。そのソフトが何をやっていて、何をやっていないか、いわゆるバグを見つけて潰していく作業。

これが、実は40年前に登場した書籍の内容をベースに行われているんです。もちろん、時代の流れで変化していることもあります。

例えば、昔は障害が出た箇所は手書きで記録していました。不具合が起きているときも、連絡は電話、すぐ駆けつけなければいけません。いまは管理ツールが発達しているので遠隔にいても情報の共有ができます。

現場に行かなくても不具合箇所を直すこともできますよね。そういった手間があっても、昔はコンピュータの数がそもそも少なかったんです。電算室や計算機室に大きなマシンが一台だけある状態。専門家がパンチカードを使って操作していましたが、いまは一般社員もみなパソコンを渡されて、仕事をしていますよね。ソフトウェアを扱う人も増えているので、テストが必要になるシーンも増えているんです。

しかし、テストの手法、概念は変えられない…ではどうすればいいのか?

◎変わっているのに変えられない、とはどういうことなんでしょうか?

薮田:例えば、ドラゴンクエストというゲームは、続編が出ると仲間や物語が変わっていきます。ゲームのマシン性能も上がっているので映像もスケールも大きくなっています。いっぽうで、少しずつ主人公を育てて最後の強敵を倒すという基本的な部分は変わっていないですよね。ソフトウェア開発の現場でも同じなんです。
昔のスパコン並の性能をいまはノート型のPCで実現できています。テスト作業、対象は変化しています。しかし、計算式やプログラムを書く基本コンセプトに変化はありません。使うための環境が変化しているだけなんです。ただし、基本コンセプトは「前と同じ」だから誰でもすぐ使えるというメリットもあります。
しかし、「誰でもすぐ使える」以外にはメリットがないんじゃないか、と考えていました。新しい人が入ってきても、環境がベテランたちの「使いやすい」に合わせてあれば、新しい人がベテランになったときにも基本概念は変わらないままですよね。だからこそ、変えるのが難しい。
でも、若い人も含めてエンジニアが一生懸命テストをしている。しかし、帰宅できない夜眠れない。そして、バグが出ると叱られる。減算評価の仕事だから、報われないしつまらないですよね。「これは変だよね」が出発点でした。
基本概念を変えるのが難しい。じゃあ何を変えればいいのか…そう考えて見つけたのが、TPI(テストプロセス改善)の概念でした。

◎どのようなところがTPIの魅力ですか?

薮田:テストプロセスの認定、標準規格などは世の中にあります。しかし、誰のためになっているのかを考えたときに、「?」となってしまうものもあるように思いました。

「TPINEXT(テストプロセス改善)」
たとえば、食品の世界で衛生基準が定められていたとしましょう。衛生基準に合わせて、品質管理を行っているので「衛生的ですか?」と聞かれたら、「衛生的です」と胸を張って答えられます。

しかし、「美味しいですか?」と言われたら答えられない。

「言われた通りにやっていますか?」

「言われた通りにやっています!でも…」となってしまうんです。

 TPIは基準をクリアするのが目的ではなく、基準をクリアした上で使いやすいシステムを提供すること、品質を保証しつつ維持することをゴールに定めている。
ここが魅力的に思えました。
たとえば、戦略と組織、テスト技術やテスト管理など、現場だけではなく経営、運用担当も含めて、関係者も視野に入れた上でのテストプロセス改善を行います。また、キーエリアという概念は面白いですよ。
実は最初、私もキーエリアが理解できなくて、趣味のゴルフでキーエリアを作ってみました。最終的な目標を定めて、最終的な目標を定めて、何が必要なのか、どうしたら実現できるのかを洗い出してチェックシートを作ってひとつひとつクリアしていく。
ここで重要なのが「目的を達成すること」ではなく、「順番を追ってクリアしていくこと」。
“プロセス”なので、ゴールを定めても過程を無視してしまったら維持ができないんです。ゴルフのフォームを改善するとしても、「改善できた」が解決ではなく「改善するためのプロセスを身につけた」が解決である。これがキーエリアを通して実感できました。
TPIができることは、評価を減算方式ではなく、未来への道へと変えることです。「言われた通りにやっているからOK」ではなく、「お客さんが喜んだからOK」とゴールを正すことができます
しかし、頭でわかっても私がゴルフで試したように、実際にやってみないことにはわかりません。だから、TPIをもっとわかりやすく解説する「TPI NEXT」の翻訳に関わりました。そして、本書を使ってよりTPIを理解できるようなセミナーを設けたんです。
 是非、TPIを体感してテスト現場の改善をはかってもらいたいです。
【薮田和夫氏プロフィール】
1976年富士通入社。以来SEの共通技術部門において企業システムのシステム生産技術に一貫して従事。作業標準、技法、ツールの研究、製品開発から適用推進に至るまで幅広く活動。またISOやJISなど標準化活動も積極的に参画。現在はISO/IECJTC1/SC7 WG4(ツールと環境)、同WG26(ソフトウェアテスト)の国内委員会の主査および委員を務め、複数規格の国際エディタも務める。2015年7月より南山大学理工学部ソフトウェア工学化の客員教授。著書に『TPI NEXTⓇビジネス主導のテストプロセス改善』がある。
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